東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)140号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第一号証及び甲第一六号証によれば、本願第一発明は、金属ストリツプの熱処理における材料温度調節方法に関するものであつて(本願発明の出願公告公報第二欄第一二行、第一三行)、一般に熱処理においては、最終の材料温度が所望の材質を得るための最も重要な条件の一つであつて、金属ストリツプの熱処理においても、従来別紙図面(一)の第1図に示すように、複数の互いに平行に配設された冷却ロールを用い、そのロール群間にストリツプを蛇行させながらロールに接触させ、金属ストリツプを搬送し冷却する技術が提供されているが、材料温度の調節をその冷却ロール内を流通する冷媒の温度制御により行うため迅速かつ正確な温度調節が難しく、また、通常ストリツプには〇・一%前後のかた伸びがあるため、ロールに接触しない部分が生じ、その結果冷却が不均一となつて、しわが発生するという欠点があつたとの知見に基づき右欠点を解決することを目的とし(同欄第一四行ないし第三三行)、その要旨とする構成を採用した(昭和五七年一一月二九日付け手続補正書第二頁第二行ないし第一四行)ものであることが認められる。
2 原告らは、本願第一発明は金属ストリツプの熱処理における材料温度調節方法であるのに対し、引用例記載のものは本願第一発明の技術と本質的に相違する熱間圧延における冷却技術であつて、引用例記載のものを金属ストリツプの熱処理に関するものとした審決の認定は誤りである旨主張する。
そこで、引用例記載のものの技術事項について検討すると、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例記載のものは名称を「熱間圧延加工帯鋼の急冷装置及びプロセス」とする発明に関するもの(右にいう「帯鋼」は本願第一発明における「金属ストリツプ」に相当する。)であつて、良質の冷間圧延鋼板を得るためには、熱間圧延の最後のパスは高温で行い、一方帯鋼巻取りは比較的低温で行う必要があり、したがつて冷却は約二〇〇度Cないし二五〇度Cで急速に行わなければならないが、従来一般に使用されている散水による帯鋼処理は、冷却が散水噴射の停留点に限定されるので、温発泡現象が生じ、冷却が均等に行われなくなる欠点があるとの知見に基づき、この欠点を克服し熱間処理され、巻取りされる帯鋼に大規模で均一の冷却を行うことを目的とした(第一頁左欄第一一行ないし第二八行)ものであることが認められる。そして、前掲甲第五号証によれば、引用例には、この目的を達成するための調整冷却用のプロセスとして、「このプロセスは、内部を冷却させた圧延ローラー上に製品をパスさせ、四五度から一八〇度の間の弧によつて列を成す連続ローラーと製品を接触させる」(同欄第三二行ないし第三七行)と記載され、FiG2(別紙図面(二))に図示された装置に従つて冷却処理を行つた場合について、「このようにして、帯鋼の縦進行速度が一五m/秒の場合、(中略)帯鋼の両面とも総接触時間は等しくなる(この例では、〇・〇八四秒間)。(中略)この例における厚さ二mmの帯鋼の温度は、ローラー列を出ると八八〇度Cから六五五度Cに下がつている;つまり、獲得冷却は二二五度Cという優れた値となる。」(第三頁右欄第三四行ないし第四九行)、「製品の冷却は、操作者の希望に応じて、より大規模にも、またより小規模にもすることができる。実際に、ローラーの数、接触の際の弧の角度、製品の進行速度等を増大あるいは減少させさえすればよいわけである。こうして、数度Cのレベルまで製品の冷却を調節することができる」(同欄第五三行ないし第四頁左欄第二行)と記載されていることが認められ、これらの記載からみて、引用例記載のものは、熱間処理を受けて高温状態にある帯鋼や帯鉄、すなわち金属ストリツプを内部冷却された複数のローラー上に通して冷却するものであつて、その際、金属ストリツプは一つのローラーの上部と、続いて次のローラーの下部と接触するように曲がりくねつた行程をとつて冷却ローラーと接触させられるものであり、右のような接触処理により高温状態の金属ストリツプに、一定時間内における獲得冷却が約二〇〇度Cないし二五〇度Cとなるような急速かつ均一な冷却を、数度Cの温度レベルまで冷却を調整しながら施すことのできる冷却処理法であると理解できる。
右認定事実によれば、引用例記載のものは、熱間処理されて高温状態にある金属ストリツプに、良質の鋼板製品とするために要求される急速かつ均一な調整冷却を施すものであるから、金属ストリツプに製品となつた際の性質を決定づける熱的な変化を与える処理を施すという意味で、金属ストリツプの熱処理に関するものということができる。
原告らは、熱処理とは、被処理材を適当な温度に加熱した後、適当な速さで冷却して、この被処理材に所望の機械的性質を付与するものであり、その冷却過程(冷却温度範囲と冷却速度)自体が製品の機械的性質を決定する主要因子となるものであつて、冷却過程の制御が必要となるのに対して、引用例記載の熱間連続圧延における冷却技術は熱間圧延直後の金属ストリツプを所定の巻取温度に冷却するものであるから、熱処理の範ちゆうに入らない別の技術である旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(川口寅之輔編「金属材料辞典」日刊工業新聞社昭和三八年五月二五日発行)によれば、「熱処理」の項に、右技術用語について「金属を溶融温度以下で、その性質を改善する目的で行なう加熱と冷却の操作をいう。(中略)広い意味では熱間の塑性加工のための加熱や(中略)磁石合金を高温度から磁界中で冷却させるなどの操作を含んでいることもある。」(第三一八四頁右欄第二九行ないし第三七行)と定義されていることが認められ、また、引用例記載のもののような熱間連続圧延における冷却技術は、熱間圧延直後の金属ストリツプを所定の巻取温度に冷却するもの、すなわち、被処理材を圧延温度に加熱した後、A3変態点以上の温度域で仕上げ圧延を完了した高温状態にある金属ストリツプを所定範囲の巻取温度まで冷却して金属ストリツプに所望の機械的性質を付与するものであり、その圧延終了温度と巻取温度が製品の機械的性質を決定する主要因子となるものであること(このことは、原告の認めて争わないところである。)、引用例に、前記認定のとおり「良質の冷間圧延鋼板を得るためには熱間圧延の最後のパスは高温で行い、一方、帯鋼の巻取りは比較的低温で行う必要があるとされている。つまり、冷却は、約二〇〇度Cから二五〇度Cで、急速に行わなければならない。」と記載されているから、引用例記載の冷却処理は明らかに急速冷却処理であること等を勘案すれば、引用例記載のものにおける熱間圧延工程からの高温帯鋼等に対する調整冷却処理は、熱処理の範ちゆうに含まれるというべきである。引用例記載の冷却処理が急速冷却処理であることは、前掲甲第五号証によれば、仕上げ圧延を完了し、高温状態(例えば八八〇度C)にある金属ストリツプ(例えば、厚さ二mm)を、所定の速度(例えば、一五m/秒の縦進行速度)で冷却ローラー列(例えばFiG2に示された七列のローラー列)へ送り、冷却ローラー列との所定の時間(例えば、FiG2中のローラー3a、4、5a、6、7aとの接触時間はそれぞれ〇・〇二八秒間で、ローラー2及び8との接触時間はそれぞれ〇・〇一四秒間であり、かつ、各ローラー間の移動時間がそれぞれ〇・〇六一二秒間であるから、それぞれの時間を合計すると、ローラー列を通過するために要する時間は〇・五三五二秒となる。)の接触によつて所定の巻取温度(例えば、六五五度C)に冷却され、冷却ローラー列から出てくるものであり、右のような短い時間内に二二五度Cという獲得冷却を達成していることが認められることから裏付けられ、また、引用例には、前記認定のとおり、「製品の冷却は、操作者の希望に応じて、より大規模にも、またより小規模にもすることができる。実際に、ローラーの数、接触の際の弧の角度、製品の進行速度等を増大あるいは減少させさえすればよいわけである。こうして数度Cのレベルまで製品の冷却を調整することができる」との記載があり、右記載は引用例記載の冷却処理技術が冷却量や冷却速度の制御が可能なものであることを意味するものと解される。
したがつて、引用例記載のものを、金属ストリツプの熱処理に関するものとした審決の認定に誤りはない。
そして、引用例には、金属ストリツプの熱処理に当たる調整冷却処理法について、前記認定のとおり、「内部を冷却された圧延ローラー上に製品をパスさせ、四五度から一八〇度の間の弧によつて列を成す連続ローラーと製品を接触させることにより」、製品が「一つのローラーの上部と続いて次のローラーの下部と交互に接触するような曲がりくねつた行程をとる。」と記載されているほか、前掲甲第五号証によれば、FiG2及びFiG3(別紙図面(二))に図示された装置について、「熱間圧延された帯鋼1は、既知の方法で、ローラー2、3、3a;4、5、5a;7、7a;及び8から成るローラー列の方向へ誘導される。偶数のローラーは、固定軸を持つており、奇数のローラーは垂直可動軸を持つている;この奇数のローラーには、同じように垂直可動軸を持つた作業用ローラー3a、5a、及び7aが連結されている。」(第二頁左欄第三行ないし第一〇行)、「ローラー機上を縦に進む帯鋼1が、ローラー4及び5の間に設置されたランプ59の光を遮断するとすぐに、光電池60は電流を流さなくなり、コイル61の給電が止まる。(中略)それにより、二本のピストン棒9aは下がり、それに伴い、軸受12を介してローラー3aが駆動する。ローラー3aが下がることにより、ローラー2及び3aが平行で、同一水平面内にあるようなレベルが装置されているエンドストツパー上にフインガー65aが置かれる状態まで、帯鋼1及びローラー3が駆動する。このようにして、帯鋼1は、一二〇度の角度に応じてローラー3aと接触する」(第二頁右欄第三八行ないし第三頁左欄第一一行)と記載されていることが認められ、右記載から、引用例記載のものは、複数の冷却ローラーのうちの数本のローラーを可動ローラーとすることにより、帯鋼と冷却ローラーとの接触状態を変えることのできる冷却装置を用いた冷却処理技術であると理解できる。そして、引用例記載のものの右構成は、審決が本願第一発明との一致点として摘示した「金属ストリツプを複数の熱交換ロールに接触支持させながら蛇行させて搬送するようにし、熱交換ロールを介して所定温度にまで冷却を行う金属ストリツプの熱処理において、前記熱交換ロールの各ロール軸が互いに平行となるように配置するとともに、少なくとも一本の熱交換ロールを移動することによつて金属ストリツプを所定温度に冷却する」という基本的な冷却処理操作にほかならない。
したがつて、本願第一発明と引用例記載のものとの一致点についての審決の認定、判断に誤りはない。
3(一) 原告らは、本願第一発明と引用例記載のものとの相違点について、引用例記載のものに審決認定の周知技術を適用して本願第一発明の構成とすることは当業者が必要に応じて容易になし得ることとした審決の判断は誤りである旨主張する。
引用例記載の技術事項は、前記2認定のとおりであり、また、金属ストリツプの搬送中に最終温度を検出し、その検出温度と所定温度との差に応じて冷却量を調節して金属ストリツプを所定温度に制御することが本件出願前周知であつたことは、当事者間に争いがない。
右の事実によれば、引用例記載のものと右周知技術とは、共に材料の変態点以上の高い温度で処理された金属ストリツプを、それが製品となつた際に所定の性質が得られるような制御された冷却処理を施すものであり、金属ストリツプの熱処理技術である点で共通するから、当業者であれば、可動冷却ロールを移動することによつて冷却量を調整することのできる引用例記載の冷却処理法において、搬送中に最終温度を検出し、その検出温度と所定温度との差に応じて冷却量を調節するという右周知の冷却量制御法を適用し、検出される最終温度と所定温度との差に応じて右可動ローラーを駆動させれば、金属ストリツプの搬送冷却処理中に最終温度を所定温度に一致させるような冷却量の制御が可能であろう程度のことは当然予想し得たことにすぎない。
原告らは、本願第一発明は、冷却処理における冷却速度の制御を目的とするものであつて、厳格な温度制御を必要とし、かつ、金属ストリツプの全長にわたつて均一な冷却を付与しなければならないという解決課題が存し、その操業状態は先行金属ストリツプの後端に後続の金属ストリツプの先端を接続しながら処理する連続操業であるのに対し、引用例記載のものは、金属ストリツプの最終温度(巻取温度)を所定温度にすればよいものであつて、本願第一発明のような解決課題が存しないし、その操業状態も一本のスラブからコイル状金属ストリツプを製造し、そして一本の次のスラブからコイル状金属ストリツプを製品とすることを繰り返す間欠操業である旨主張する。
しかしながら、引用例記載のものにおける金属ストリツプの冷却処理は、前記2認定のとおり、熱間処理後の高温状態にある金属ストリツプの温度を所定の巻取温度まで急速に低下させるための冷却処理であり、冷却に要する時間は短時間である必要のあるものと解されるから、冷却速度の制御が必要であり、また、所定の冷却速度で冷却を行うために、金属ストリツプの種類に応じて、冷却ローラーと金属ストリツプとが所望接触状態で接触するような位置に冷却ローラーをあらかじめ移動配置しておくものと理解できるから、原告主張のように、冷却速度の制御ないし管理が不要な冷却処理であると解することができない。
また、操業状態については、前記本願第一発明の要旨からみて、本願第一発明が原告主張のような連続操業を必須の構成要件とするものと解することができず、前掲甲第一号証によれば、本願明細書の記載を詳細に検討しても、本願第一発明をそのように限定解釈すべき根拠を見いだすことはできない。
仮に、本願第一発明が連続操業を当然の要件とするものであるとしても、成立に争いのない甲第七号証(昭和五〇年特許出願公告第三六六三一号公報)によれば、審決が周知技術として引用した右公報記載のものは、順次送られてくる圧延材に対する冷却量の最初の設定は、最終圧延スタンド出側で圧延材の温度及び板厚を測定し、圧延材の比重、比熱等から所定の巻取温度まで冷却するのに必要な冷却時間を算出し、この必要な冷却時間だけスプレー噴射による冷却が行われるようにスプレー装置を制御することによつて行つており、しかる後に巻取温度の実測によつて巻取温度偏差を検出してスプレーを補正制御していることが認められるから、圧延材として異種の金属ストリツプが連続的に接続された状態でスプレー装置に送られてきても、圧延材毎に対応する冷却量が得られるようにスプレー装置を制御できるものである。したがつて、引用例記載のものに右周知技術を適用して連続操業の冷却処理法を構成することは当業者において容易に想到し得たことというべきである。
さらに、原告らは、引用例記載のものと周知技術との結合は、引用例記載のものの構成のうちで、搬送冷却処理中において冷却量の制御可能なところでなければならないが、引用例記載のものの構成のうちで右制御が可能なところは固定熱交換ロールに供給する冷媒の供給量又は冷媒の温度であり、したがつて引用例記載のものに周知技術を組み合わせても、本願第一発明とは搬送冷却処理中の冷却量の制御手段の点で相違する旨主張する。
しかしながら、引用例記載のものは、前記2認定のとおり、その内部冷却ローラーのうちのいくつかは移動でき、その移動によつて帯鋼(金属ストリツプ)の接触長さを変更し、もつて冷却量の調節を行うものであるから、右装置を用いて冷却処理操作中に冷却量の変更を行う必要があれば、右可動ローラーを所定距離移動させることによつてその目的を達成できることは当業者にとつて自明である。しかも、引用例には、前記2認定のとおり、「ローラー機上を縦に進む帯鋼1がローラー4及び5の間に設置されたランプ59の光を遮断すると(中略)二本のピストン棒9aは下がり、それに伴い、軸受け12を介してローラー3aが駆動する。ローラー3aが下がることによりローラー2及び3aが平行で、同一平面内にあるようなレベルに設置されているエンドレスストツパー上にフインガー65aが置かれる状態まで、帯鋼1及びローラー3が駆動する。このようにして、帯鋼1は一二〇度の角度に応じてローラー3aと接触する。」と記載されており、右記載は、帯鋼1がローラー3aの下を通過し、次のローラー4の上をも通過してランプ59の光を遮断する位置に進んだ段階で初めてローラー3aを駆動して搬送移動中の帯鋼1と接触させ、これを押し下げることによつて所定の角度での接触状態を形成していることを示しているから、引用例は、帯鋼1の移動中にローラー3aを駆動して接触角度の変更、すなわち冷却量の変更を行い得ることを示唆しているというべきである。
したがつて、引用例に搬送冷却処理中に冷却量を制御するという操作法が明記されていなくても、引用例の示唆に基づき引用例記載のものに前記周知技術を適用して本願第一発明と同一の構成とすることは当業者が容易になし得たことというべきであるから、原告の前記主張は理由がない。
(二) 原告らは、審決が本願第一発明と引用例記載のものとの相違点について判断するに当たり、本願第一発明の右相違点に係る構成によつて奏する作用効果について、引用例記載のものから当業者が容易に予想できる程度のものと認められると判断したのは誤りである旨主張する。
前掲甲第一号証によれば、本願第一発明は「熱交換ロールの各ロール軸が互いに平行となるように配置するとともに、その少なくとも一本の熱交換ロールを金属ストリツプとの接触長さが変化するように移動させることにより、金属ストリツプの単位幅当たりの熱交換ロールに対する総接触面積を増減させて、熱交換ロールにより蛇行搬送する金属ストリツプを所定温度に冷却」する構成を採用したことにより、金属ストリツプの冷却量や冷却速度の設定、変更等を制御することができ、その結果温度管理が容易であり、迅速かつ正確な温度調節ができるという作用効果を奏するものと認められる。
原告らは、本願第一発明の奏する右作用効果は、引用例にも周知例にも記載されてなく、引用例記載のものから当業者が容易に予測できる程度のものではない旨主張する。
しかしながら、引用例記載のものは、前記2認定のとおり、金属ストリツプと熱交換(内部冷却)ロールとの接触長さの変更が金属ストリツプの搬送冷却処理中に行われる点を除き、冷却量や冷却速度の設定、変更は本願第一発明と同様金属ストリツプと熱交換ロールとの接触長さの設定、変更によつて行われているものであり、また、「数度Cのレベルまで製品の冷却を調整することができる」、「急冷装置」、「調整冷却装置」であり、「製品の冷却は、操作者の希望に応じて、より大規模にも、またより小規模にもすることができる。実際に、(中略)接触の際の弧の角度(中略)を増大あるいは減少させさえすればよい」というものであるから、金属ストリツプに対する冷却量や冷却速度の設定、変更を金属ストリツプと熱交換ロールとの接触長さのみによつて支配(制御)することに基づく作用効果を奏し得るものである。そして、搬送冷却処理中に冷却量等を増減する制御法自体は周知であり、成立に争いのない甲第八号証(昭和四四年特許出願公告第一三八二一号公報)によれば、周知技術において右制御法を採択する目的は、右公報に、「従来は巻取温度が目標値になるように仕上圧延機出側温度、仕上出側厚、巻取温度を実測して経験的スプレー等の冷却装置の水量を手動調整していた。しかし、この方法によると、上記諸条件が急変した場合における即応性(「速応性」は「即応性」の誤記と認める。)、温度偏差値の許容範囲の限界および、冷却位置すなわち制御位置と巻取温度検出器との間の時間遅れによる冷却効果の定量的把握の困難性等の諸欠点が存していた。本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、特に温度制御の精度を上げるために粗冷却装置と微冷却装置を配し、これらを制御した点に特徴がある。」(第二欄第一行ないし第一二行)と記載されていることから明らかなように、諸条件の変化に迅速に対応して冷却制御することにあると認められるから、金属ストリツプの搬送冷却処理中に熱交換ロールを移動させて接触長さを変え、これにより金属ストリツプの単位幅当たりの熱交換ロールに対する総接触面積を増減させて冷却量等の制御を行うことに基づいて奏し得る本願第一発明の前記作用効果は、当業者であれば、引用例記載のものと右周知技術とから容易に予想できる程度のものというべきである。
(三) したがつて、本願第一発明と引用例記載のものとの相違点について、本願第一発明の相違点に係る構成とすることは、引用例記載のものに前記周知技術を適用することによつて当業者が容易になし得たことであり、その作用効果も引用例記載のもの及び前記周知技術から当業者が容易に予想できる程度のものと認められるから、この点に関する審決の認定、判断に誤りはない。
4 以上のとおりであるから、本願第一発明は、引用例記載のもの及び審決認定の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであつて、審決に原告ら主張の違法は存しないというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 金属ストリツプを複数の熱交換ロールに接触支持させながら蛇行させて搬送するようにし、熱交換ロールを介して所定温度にまで冷却又は加熱を行う金属ストリツプの熱処理において、前記熱交換ロールの各ロール軸が互いに平行となるように配置するとともに、その少なくとも一本の熱交換ロールを金属ストリツプとの接触長さが変化するように移動させることにより、金属ストリツプの単位幅当たりの熱交換ロールに対する総接触面積を増減させて、熱交換ロールにより蛇行搬送する金属ストリツプを所定温度に冷却又は加熱を行うことを特徴とする金属ストリツプの熱処理における材料温度調節方法(以下「本願第一発明」という。)。
2 金属ストリツプに接触し冷却又は加熱を行う熱交換ロールを複数本金属ストリツプが蛇行して張設されるよう互いに平行に配設するとともに、その少なくとも一本の熱交換ロールを他のロールに対して平行移動可能に設ける一方、前記複数の熱交換ロールを接触通過後の金属ストリツプ温度を検出する手段と、該手段の検出信号とあらかじめ与えられた所望最終温度信号との偏差を取り出す手段とで構成される制御手段を設け、該制御手段により前記移動可能な熱交換ロールに設けた移動手段を前記偏差信号に基づいて制御し、前記複数の熱交換ロールに接触する金属ストリツプ単位幅当たりの総面積量を変えるようにしたことを特徴とする金属ストリツプの熱処理における材料温度調節装置(以下「本願第二発明」という。)。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
(以下省略)